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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)1534号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人沖田誠の上告趣意第一點について。

論旨は、原判決に示されている第一の(一)乃至(三)の事実について、その認定が採證の法則に違反してなされたものであることを主張しているけれども、その理由として擧げているところはいずれも採用することができない。蓋し論旨は先ず、被告人が公判廷に於てさきの供述をひるがえしたにも拘わらず、原判決がさきの供述を證據として採用したことを非難しているけれども、被告人が異なった供述をした場合にどの供述を證據として採用するかは、原審の自由裁量權に屬することである。

次ぎに論旨は、被告人が田中富雄から金を受取る際には何時までに米を貰ってやるという期限の定めがなかったとの右田中の陳述を援用しているが、たとえはっきりした期限の定めがなくとも、證據として引用せられている同人の供述記載のように、再度も催促されてもなお相當の時期に約束を履行しないような場合には、詐欺の所爲のあったことを認定する妨げとはならない。(なお同人の證言が所論のように裁判長のいわゆる誘導訊問にもとずいてなされたものであることは認められず又その證據價値を否定する理由もない。)更らに被告人は昭和二二年一一月一五日食糧管理法被疑事件について勾留せられ其の勾留期間中同月二七日本件詐欺罪について檢察事務官の取調を受けその際録取された聽取書中の供述記載が原判決の證據として採用されていること所論の通りであるが、さればとて右の聽取書を無効とする理由はなく、これを證據として採用したことが違法であるとも言い難い。論旨は又原判示第一の(四)の事実について、原判決が證人菊地龜作に對する訊問調書中被告人に不利益な一部分のみを證據として事実を認定したことを非難しているけれども、證據の取捨選擇は原審の専權に屬するところであるから、これを以て原判決に違法ありと言うことはできない。

最後に論旨は、原判決が判示第一に擧げた四つの犯罪を連續犯としたことを攻撃しているけれども、是等四つの連續した行爲は何れも詐欺罪として同一罪名に觸れるものであるから、これを連續犯として處斷したことは正當である。是等四つの行爲がなされた昭和二十一年一一月から同二二年九月に至る迄の約十箇月は、是等の行爲を連續犯と認めることを妨げる程長い期間ではない。且つこれ等の犯罪が若し連續犯でないとすれば、併合罪としなければならないが、このような主張は被告人のために不利益なものであるから、上告理由として不適法である。

要するに論旨第一點の各主張は、右の理由によって何れも採用することができない。(その他の判決理由は省略する。)

以上の理由によって刑事訴訟法施行法第二條舊刑事訴訟法第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は(中略)裁判官一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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